僕らの話 その7
僕らのいた学校は10月に学園祭がある。学校は工業系のほぼ大学みたいなもの(隠す必要がないので言うと高専)で、スケールのでかい企画や制作物を体験できるのが学園祭である。スケールのでかさと学生のイキイキした姿に惹かれ、自分は高専を進路にしたようなものだ。
そして我々NOZOKI部も、一年生の秋、学園祭でスケールのでかいことをした。学園祭で1発の打ち上げ花火を上げたのだ。今回の話は、我々が打ち上げた花火と学園祭にまつわる話である。
「なぁ、俺らで金だして、花火をあげてみないか?」寮の食堂で飯をともにしていたバサラが口にした。
「どうせなら面白いメッセージを添えようぜ!」七味とマヨネーズが大量にかかっている白飯をかきこみながら、デュエルが提案をした。
僕らはみんな賛成し、学園祭最終日に、花火をあげることになった。
学園祭のフィナーレは、敷地内のグラウンドで花火があがり、松本ぼんぼんを学生全員で踊って、〆という流れである。花火は有志が資金を出し合って打ち上げるもので、メッセージを事前に学園祭実行委員に提出すると、アナウンス係のおねーさんが読んでくれることになっている。これに応募することにした。
飯を食べながら、メッセージをみんなで考え、学園祭実行委員に提出した。はじめに提出したメッセージは、いまとなっては、本当に全く思いだせないけど、とんでもないドシモネタだった。
後日、学園祭実行委員会から返答がきた。
「こういったメッセージは、おやめください」というものだった。
「チッ 頭のかてー奴らだぜ」コーラが舌を打った。
仕方なく、我々は、シモネタのシモ度を下げたメッセージを提出した。
学園祭実行委員会は、それでも却下してきた。「こういった卑猥なメッセージは読み上げかねます。」という返事と共に。やんわりと最初は断ってきたけど、今度は、シモネタはやめろ とストレートに言ってきたのだ。
「社会性のあるメッセージにしないか?」とミリオンが提案してきた。しかし、それでは、意味がないのだ。我々の魂を学生全員に見せつけたい。インパクトを与えたい。とはいえ採用されなければどうしようもないため、ミリオンの提案も若干踏まえつつ、我々はメッセージを考え直し、学園祭実行委員会に提出した。
後日、、
メッセージがやっと採用された。
それ以降は、クラス展示の準備に励んだり、部活動の出し物の準備をしたり、NOZOKI部メンバーが各自それぞれの過ごし方をして、時間が過ぎていった。
そして、いよいよ学園祭のフィナーレ、学園祭最終日。夜の18時を過ぎた。寮でいつものように食事をしていると、わりと近くにあるグランドから、アナウンスのお姉さんがなにやら喋っている声が、スピーカーを通して聞こえてきた。
デュエル「やべぇ‼︎ 花火はじまっちまうぞ!」
バサラ「いくぜ!俺らの見せ場だ‼︎」
急いで飯をかきこみ、グラウンドへダッシュ。
走りながら、バサラが口にした。
「俺たちの… 魂を 見せつけてやるッ‼︎」
花火をあげる有志の、ほぼ100パーセントは、クラス全員での思い出づくりとして、お金を出し合って花火を打ち上げる。卒業を控えた5年生や、専攻科生が中心だ。ハンパなく豪勢に何発も打ち上げる。バイト代 × クラスの人数 × 団結力 のパワー(財力)がある。
しかし僕らは違う。僅かな小遣いを出し合い、自分達の満足のためだけに、一発の花火を学生全員の前で打ち上げるのだ。学生全員に何の意味もなく、自分たちだけに意味がある花火を。こんなに尖りまくった集団が他にあるだろうか。
尖りまくってて最高だなと思いながら、ダッシュして、グラウンドに到着した。たくさんの人たちがいた。学園祭最終日ということもあり、集っている人たちは皆、気分が高まっているようだった。
そして、いよいよ花火が始まった。
「学園祭お疲れ様!うぇい‼︎」
「卒業まで、あと少し、よろしく!」
みたいなメッセージの後に、何発もの花火が夜空に打ち上げられた。
そして、いよいよNOZOKI部の出番。
アナウンス係のおねーさんが僕らの名を読み上げる。
おねーさん「続いての花火は、NOZOKI部です」
僕ら「くるぞッ…ナレーション…!!」
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『 俺たちの 魂 を見てくれ!! 』
『 STOP!! 少子化!! 』
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さんざん再提出を食らわされたナレーションが響く。その後に夜空へ打ち上げられた一発の花火。花火は儚く散っていった。
グラウンドに集っている学生は「え…今のなに…」「NOZOKI部ってなんだ…」といった感じで、 少しざわついているように見えた。当然の反応だ。だが、これで良かった。僕らの自己満足を学生全員に示すことができた。
その後、他の団体の花火が華やかに夜空を彩り、花火の後は、学生全員でグラウンド中央の櫓を囲い、松本ぼんぼんを踊った。
ひとしきり踊った後、「学園祭はこれにて終了となります。」「おつかれさまでした。」アナウンスのお姉さんがそう話し、学園祭は幕を閉じた。
僕 「いやー 花火よかったな。」
バサラ 「…….。」
デュエル 「おい、どうした?」
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バサラ
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
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バサラは走った。すごい勢いでグラウンドから出ていった。
一同「おいまてよ!!」
バサラは大声で叫び、勢いをつけながら校門を飛び出していった。そして何にもない一本道を全速力で走って行った。僕らは必死でバサラを追いかけていったが、バサラの姿はどんどん見えなくなっていった。それほどの勢いで駆け抜けていったのだ。
僕「バサラ!! おい!! どこいくんだよ!!」
声が届いたか、届いていないのか。バサラは走るのをやめなかった。声が届いていたとしても、あいつは走るのをやめなかったと思う。グワーッと内から出る熱を止めることができなかったんだろう。なにかやってやる、そんな気持ちを、止めることができなかったんだろう。そんな勢いは、誰にも止められない。
バサラを追いかけた僕の足は遅くて、バサラには追いつかなかった。それに少し寂しさを感じたけど、これからバサラとNOZOKI部が進む道に期待を抱いた。胸が踊った。走って心拍数が上がっただけかもしれないけど。
あの日打ち上げた花火のメッセージ。
「俺たちの魂」は、もともとどんなメッセージだったんだろう。
「STOP少子化」は、もともとどんなメッセージだったんだろう。
あの日打ち上げた花火の元ネタを、
僕たちはもう忘れてしまった。
それでも、
誰よりも尖っていて
勢いがあった日々のことを、
あの日、走った時の感情を、
今でも鮮明に覚えている。
おまけ
研究室で作った映画泥棒マスク。それを被る僕。現代視覚文化研究会の展示。
あっ、いったん、僕らの話、最終回です。ここまで読んでくださったみなさん、本当ありがとうございました。